銅谷賢治 先生

Title:ベイズ推定による脳機能モデルと脳データ解析

銅谷 賢治(どうや けんじ)
沖縄科学技術大学院大学 神経計算ユニット

 脳研究は2重の不確実性への挑戦である。ひとつは、脳の形態や活動に関する計測はノイズや分解能の限界でサンプリングされた部分情報であり、そこから脳の実体に迫るにはその背後にある構造と機能を何らかの仮定のもとで推定する必要に迫られる。さらに脳自体も、持って生まれた感覚器官や経験と記憶の限界のもとで、身体や環境の状態やそこで取るべき行動を、何らかの仮定や制約のもとで推定し知覚や運動を実現している。
 与えられたデータだけからは解が定まらない不良設定問題に関して、確率的な仮定のもとに可能な解を絞り込んで行く上で、ベイズ推定の枠組みは明快な数学的定式化と実戦的なアルゴリズムを与えてくれる。
 この講義では、「脳が不確実な感覚信号のもとでいかに環境の状態を推定するか」という脳のベイズ推定モデルと、「不確実性を含むデータからいかに脳の構造や機能を推定するか」という脳データのベイズ解析について、基本的な原理から最近の研究までを紹介する。

参考文献:
1, Doya K, Ishii S, Pouget A, Rao RPN (2007) Bayesian Brain: Probabilistic Approaches to Neural Coding. Cambridge, MA: MIT Press. doi:10.7551/mitpress/9780262042383.001.0001
2, Lochmann T, Deneve S (2011) Neural processing as causal inference. Current opinion in neurobiology 21:774-781. doi:10.1016/j.conb.2011.05.018
3, Bogacz R (2015) A tutorial on the free-energy framework for modeling perception and learning. Journal of Mathematical Psychology. doi:10.1016/j.jmp.2015.11.003
4, Funamizu A, Kuhn B, Doya K (2016) Neural substrate of dynamic Bayesian inference in the cerebral cortex. Nature neuroscience 19:1682-1689. doi:10.1038/nn.4390

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