A03社会的身体表現による個体間相互作用の生成モデル開発
「目は口ほどに物を言う」という慣用句がありますが、視線・表情・姿勢・動作などの非言語の身体表現は、意図や感情などヒトの内部の状態の社会的な伝達手段として機能しています。これらは霊長類など社会集団を形成する動物種においても広く観察され、社会的コミュニケーションの本質的要素をなしていると考えられます。しかし手話やジェスチャーなど言語的に解釈される例外を除き、社会的身体表現を定量的に解析する有効な手段は知られていず、コミュニケーションダイナミクスの包括的な記述には至っていません。
小型霊長類のコモン・マーモセットは、他の個体に対する協力性や公平性を認識するなど豊かな社会性行動を示しますが、自由な運動を妨げずに視線や身体運動を詳細に測定することはこれまで困難でした。本研究では、新規のモーショントラッキング技術を用い、社会的身体表現を高解像度に測定します。測定された行動データに対し、自然言語処理分野で発展してきた文脈の分節化アルゴリズムを対照・応用することで、個体間の相互作用や時間発展を教師なし機械学習の枠組みで計算機的に記述する事を目指します。
更に、遺伝子工学技術を用い、特殊な神経受容体(DREADDs)を脳の特定脳領域に導入することで、自由行動中の動物に対して一過的・局所的な脳活動制御を施す試みを行います。制御による影響を詳細に解析する事で、脳の局所活動が社会的身体表現に与える影響をデータ駆動アプローチから明らかにする事を目指します。