報酬と注意の情報処理に関与するドーパミン神経回路機構

A02運動と行動 報酬と注意の情報処理に関与するドーパミン神経回路機構

 ドーパミンニューロンは報酬に関連した情報を伝達する神経系として注目されています。たとえば、予想していたよりも大きな報酬を得たときにドーパミンニューロンの活動は上昇し、予測よりも小さな報酬しか得られなかったときは活動が減少します。このようなドーパミンニューロンの活動は、動物が学習したり、その意欲を調節するために重要な役割を果たすと考えられています。一方、ドーパミンニューロンが変性・消失するパーキンソン病などの疾患では、報酬に関連した障害(たとえば意欲障害)のほかにも、運動機能障害や認知機能障害が生じることが報告されています。報酬情報を伝達するドーパミンニューロンは、どのようなメカニズムにより、このように多様な脳機能に関与しているのでしょうか?
 これまでの研究の中で我々のグループは、報酬以外の刺激(たとえば罰刺激や記憶することが求められる図形)を呈示したときのドーパミンニューロンの活動を記録し、ドーパミンニューロンがこれまで考えられてきたような報酬情報を伝達する一様な集団ではないことが明らかにしてきました(Matsumoto & Hikosaka, Nature, 2009; Matsumoto & Takada, Neuron, 2013; Matsumoto, Mov Disord, 2015)。黒質緻密部の腹内側や腹側被蓋野のドーパミンニューロンは、これまで報告されてきたように、動物が報酬を得たときに活動を上昇させ、その価値に関係した情報を伝達していました。一方、黒質緻密部の背外側にあるドーパミンニューロンは、罰刺激や記憶することが求められる図形が呈示されたときにも活動が上昇し、呈示された刺激のsalience(顕著性)に関係した情報を伝達していました。
 本研究では、共同研究者と開発した光遺伝学の手法(Inoue et al., Nat Commun, 2015)を用いて、様々な認知行動課題をおこなっているサルのドーパミンニューロンの報酬価値信号とsalience信号を人為的に操作する実験を計画しています。そして、その際にサルの報酬機能や運動機能、認知機能がどのような影響を受けるのか解析し、ドーパミンニューロンが多様な機能に関与し得るメカニズムに迫りたいと考えています。

研究者リスト

  • 松本 正幸

    Project Leader

    松本 正幸

    筑波大学医学医療系

    教授

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